前回のブログでは、アメリカのMGA(Managing General Agent)モデルの特性と、その構造がいかに高度に進化した保険流通モデルであるかを解説しましたが、今回はそれが日本の金融市場においてどう適応しうるのか、「日本版MGAモデル」の展望について掘り下げてみたいと思います。
米国MGAの日本進出──制度の壁と“R&D的活用”
近年、日本の大手保険会社が米国の先進的なMGA企業、たとえばサイバー保険に強みを持つCoalition社や、気象データを駆使したパラメトリック保険を得意とするDescartes Underwriting社などと提携するケースが見られるようになってきました。こうした企業は、AIやリアルタイムデータを活用した商品設計、引受判断、リスク管理などにおいて世界的に世界的に高い評価を受けていると思われ、日本の保険会社にとっては技術提携や商品開発力の強化という部分での連携が進んでいるようです。
しかしながら、現時点では日本の保険業法上、MGAという業態の制度的な位置づけは明確ではなく、代理店や引受人としての活動には制限があります。そのため、こうした提携の多くはあくまで保険会社内部のR&D(研究開発)的な取り組みに留まっており、そこで商品化されたとしても、最終的には保険会社が販売主体となり、一般代理店がMGAと直接的なコラボをするという事ではなさそうです。
つまりは、MGAが持つ専門性や革新性は、今のところ保険会社に吸収される形でしか活かされておらず、代理店側が直接MGAと協働し、商品を共創するというアメリカ的なスタイルは、まだ日本には存在していないのが現実です。
金融ビジネス全体に広がる“日本版MGA”的構造
とはいえ、「専門性を持つ中間事業者が、柔軟に商品やサービスを設計し、複数の金融機関と連携して提供する」というMGA的な発想は、保険業界に限ったニーズではありません。実際、すでに他の金融分野では、“日本版MGA”とも呼べる構造が少しずつ生まれ始めています。たとえば:
- IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)法人は、複数の証券会社と契約し、顧客ニーズに応じた商品や運用提案を行っています。販売の主体でありながら、商品の選定や構成に関与する姿勢は、まさにMGA的です。
- 住宅ローン代理業では、複数の銀行商品を比較し、顧客属性に合わせたローンアレンジメントを行う業者が出始めています。顧客の状況を深く理解し、最適解を組み立てる姿勢は、保険におけるMGAの役割に重なります。
- 資産運用ビジネスでも、投資一任型アドバイザリーやラップ口座の設計において、金融機関と協働しながら“ソリューションを構築する”立場が生まれてきています。
このように、広く金融という面で捉えると、MGA的なモデルはすでに日本のビジネスの中に入り込んできているのです。
総合金融代理業の未来は“日本版MGA”の進化にあり
保険業界においては、制度や文化の違いにより、米国型MGAモデルの全面的な移植は難しいかもしれません。しかし、日本市場の特性を踏まえた“ハイブリッド型”MGAモデル、すなわち「専門性 × 金融機関との協業 × 顧客理解 × 柔軟な商品構成力」という要素を持つ新しい事業形態は、間違いなく可能性を秘めています。
総合金融代理業を志すプレイヤーこそ、この「MGA的な構造」を意識的に取り入れ、単なる販売チャネルから、顧客価値を生み出す“共創パートナー”へと進化していく必要があるでしょう。制度が整うのを待つのではなく、既存の枠組みの中でどう最適化し、進化させるか。その発想こそが、これからの金融代理業の差別化を生む鍵になる。そう思っております。
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